三和ユニバーサルデザイン歩道の開発 これまでの取り組みと平成24度の調査結果 【三和/行徳】
卒論が終わったので僕がテーマとして取り組ませてもらった三和ユニバーサルデザイン歩道の開発について記しておきます。
先生、高尾さん、調査に協力していただいた全盲者の野口さん、弱視者の坂丸さん、車いす利用者の森さん、研究室OBの野口順平さん、これまで三和UD歩道の検討会に参加していただいた皆さまありがとうございました。
もう少し、この取組みは続きますがよろしくお願いします。
1.はじめに
視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック)は視覚障害者を主対象とするバリアフリー整備です。
視覚障害者には、全く目の見えない「全盲者」と目の見えにくい「弱視者」がいます。
誘導用ブロックの機能として、全盲者に対しては、ブロックの表面に凹凸を設けてその凹凸を足裏、白杖で認識してもらうことで誘導をしています。
弱視者に対しては、ブロックと周囲の舗装との明るさの差(輝度比)を視覚的に認識してもらうことで誘導しています。
したがって視覚障害者にとってこの凹凸や輝度比というのは道路を歩く上でとても重要な情報であることが分かります。
しかし、その凹凸に高齢者が歩く時につまずいたり、車いす利用者の車輪がひっかかり走行しにくいということや、目立ちすぎる誘導用ブロックは歴史的な町並みなどで景観的にあまり望ましくないという問題が指摘されています。
長崎市三和町では、長崎県による栄上為石線整備事業において市民参加での歩道のデザイン検討が行われました。視覚障害者、車いす利用者、地元住民、街路デザインのアドバイザーとして九州大学景観研究室が参加して、誘導用ブロックを用いない歩道を検討しました。
そして、視覚障害者だけでなく、車いす利用者や高齢者、歩道全体の景観にも配慮したユニバーサルデザインの歩道を目指して設計を行いました。
2005年2月〜2006年12月までに全22回開催された検討委員会や2007年に開催された社会実験を通して、3回試験施工をして設計改良に取り組み、2011年3月に栄上為石線は竣工を迎えています。
検討会ではユニバーサルデザインに関する項目だけでなく様々なことが議論されましたが、卒論ではユニバーサルデザインに関する部分に着目して完成した歩道部分の設計意図が達成しているか検証した結果についてまとめました。
2.設計プロセス
視覚障害者の野口さんから「誘導用ブロックでなくても,左右で舗装の粗さや色が違えばそれを頼りに歩行できる」という意見があり、誘導用ブロックを使用しないこととしました。
そして、歩道の設計にあたっては以下の3点を設計方針を定めました。
ⅰ全盲者、弱視者、車いす利用者に問題のない歩道
ⅱ景観にも配慮した歩道
ⅲ高価な材料を使用せず、通常程度の施工コストの歩道
先ほどの野口さんからのアイデアと設計方針をもとに歩道の検討が行われ、実施設計が完成しました。
3.整備内容
三和UD歩道は、左右のコンクリートとインターロッキング、中央2列のピンコロ石で構成されています。ピンコロ石は割肌仕上げで表面のざらついた10cm四方の立方体の石です。
それでは、実施設計とその設計意図について説明します。
【全盲者】
・左右の滑らかなコンクリートと粗いインターロッキング、中央のピンコロ石による粗度差で境界部を示して誘導します。
【車いす利用者】
・基本的には滑らかなコンクリート上を走行します。
・ピンコロ石を舗装面と出来る限りフラットに設置することで走行しやすいです。
【弱視者】
・左右のコンクリートとインターロッキングにより面的に輝度比を確保して誘導します。
・ガイドラインに示されている「弱視者,健常者ともに問題ない輝度比」を参考に、白色のコンクリートに対してインターロッキングの色を選択しています。
【その他】
・視覚障害者が歩車道境界を認識できるように、インターロッキングよりも触感覚や視覚的に認識しやすいと考えられるコンクリートを車道側に配置しました。
・ピンコロ石の個数は誘導用ブロックの(300mm)を基準として、視覚障害者が認識できて車いす利用者が走行しやすいように2個(210mm)としています。ピンコロ石の目地は、白杖で認識できて車いすの車輪がはまらないように幅10mmとして、舗装面から5mm凹ませています。
・代表的なコンクリート表面仕上げとして、滑らかな順に「金ゴテ仕上げ」「木ゴテ仕上げ」「ほうき引き」があり、金ゴテ仕上げでは雨の日など滑る危険性があるため木ゴテ仕上げとしました。
4.調査方法
全盲者、弱視者、車いす利用者に対する設計意図が達成されているか検証するために、
検討委員会で設計プロセスに参加していた野口さん(全盲者)、坂丸さん(弱視者)、森さん(車いす利用者)と完成した歩道を歩行して、三和UD歩道についてヒアリングしました。
その調査で設計意図が達成されているという評価が得られれば、より多くの障害者による調査を行う計画でありました。
しかし、調査後に設計通りに施工されていない問題が発見されたため、野口氏、坂丸氏、森氏と長崎県庁の野口さん(研究室OB当時三和の取り組みに参加)と景観研のメンバーで改善案の検討を行い、本研究の調査を終了しました。
県の担当者に話を伺ってみると、用地買収の問題や地すべりにより工事が遅れ、その間に検討委員会に参加していた県の担当者が異動され、設計意図が伝わらないまま工事が行われていたことが分かりました。
5.調査結果
・境界部を示すために左右のコンクリートとILによる粗度差に関して,施工による問題もあったが野口さん、坂丸氏は認識しにくいという評価でした。森さんはコンクリート、インターロッキングともに走行に支障はないという評価でした。
・境界部を示すために使用した粗度の少し大きいピンコロ石を野口さんは認識でき、森さんの走行にも支障はないという評価でした。
・コンクリートとILによる輝度比を坂丸氏は認識できるという評価でした。歩道全体で面的に輝度比を確保しているので、道の先まで視認できるという評価でした。
以上の評価をもとに改善案の検討をして、滑らかなコンクリートに対してより粗いILを使用することにしました。
今後の取組みとして、改善案の試験を野口さん、坂丸さん、森さんと行います。
僕は「わんさかさんわ」チームの中で一番下っ端もんではありますが、三和UD歩道の検討に少しでも力添えができればと思っております。関係者のみなさま今後ともご協力よろしくお願いします。