今年の主な出来事(その4):木製バリアフリー歩道の実証試験
9月から10月にかけて、伊都キャンパスの一角に木製バリアフリー歩道の実証試験設備を作りました。
この木製バリアフリー歩道は、三年前から科研費をいただいて進めている研究です。2004年に始まった三和町(現長崎市)での栄上為石線道路拡幅事業に九大景観研はアドバイザーとして参加しましたが、そこでの住民参加ワークショップ(23回開催!)で、コミュニティーに暮らす様々な障害をお持ちの方々にとって使いやすい歩道とはどんなものかを市民目線、住民目線で考えたのが、この研究のきっかけになりました。
以来、様々な試行錯誤を経て(この辺はこのブログの「長崎市三和町」のカテゴリーを選んでいただくと、いろいろ記事があります)、日本各地の山に眠っている杉を用いたウッドデッキで歩道を作る、というアイデアに行き着きました。
九州大学農学部林産学科の樋口光夫教授(僕の親戚ではありません)が開発され1999年に九州木材工業(株)で製品化された環境に優しいスギ・ヒノキの防腐処理技術(http://www.kyumoku.co.jp/development.html)の存在を知ったことも、このアイデアを前に進める大きな力になりました(九大景観研では2002年頃から、ボラード、サイン、街灯、車止め、歩道橋など、様々な木製構造物でこの素晴らしい技術を使わせていただいています)。
木製バリアフリー歩道の特徴はたくさんありますが、一番は白杖で叩いたときのコンクリート舗装やアスファルト舗装とは明らかに異なる「音」です。視覚障害のある方は様々な情報から自分のいる位置を認識されますが、その中でも「音」は特に重要です。現在一般的なインターロッキング(コンクリート)舗装やアスファルト舗装の歩道ですと、何かの拍子に車道に出てしまった時に白杖の打音が同じなのでそれに気づかないことがあります。これはとても危険なことです。歩道が木製であれば、この「音」が全く違うので、歩道からズレるとすぐに気がつきます。
また、歩いた時の足裏から伝わる感覚がコンクリート舗装やアスファルト舗装に比べて「柔らかい」ことも、自分が歩道にいることを把握する上で重要な情報になります。
こうした木材の特性を活かすことで視覚障害のある方が安全に歩行できる歩道を実用化することが、この研究の最終目標です。
三年間の科研費研究の最終年に当たる今年は、昨年までに明らかにした木材の音響特性データと、視覚障害をお持ちの方達にお願いして実施した舗装比較試験(車で持ち運び可能なサイズの数種類の舗装サンプルを叩いたり乗っかったりしていただく試験)の結果を踏まえて、実証試験を実施しました。
まず、幅4メートル、延長約20メートルの歩道を伊都キャンパス内に建設しました。工事監督はテクニカルスタッフの荒巻君。地元の工務店さん(荒巻君のお知り合い)の力もお借りしました。
掘削工事から始まり、基礎コンクリートの打設、根太材の設置、デッキ材の設置、アスファルト舗装の施工、そして視覚障害者誘導ブロック(黄色い線)の貼り付けまで、大学院生の原田君(来年取り組む修論のテーマが木製バリアフリー歩道です)、四年生の佐々木君(この試験が卒論になります)、日下部君、藤村君の大いなる助力のもと、無事完成しました。みなさん、お疲れ様でした! これまでに履修したコンクリート工学他の講義が少しは役に立ったかな…
完成した試験歩道を使って、さっそく27名の視覚障害をお持ちの方々に大学までお越しいただき、アスファルト舗装と木製デッキ舗装の上を実際に歩き比べた際の両者の違いについてご意見、ご感想を伺いました。
来年は、さらに約70名の方にご協力いただき合計100名分のデータを収集し、その分析から木製バリアフリー歩道の有効性を明らかにする予定です。いい結果が出ますように!
試験歩道を設置する場所の掘削が完了した状況。幅4メートル、長さ約20メートル。手前が杉板デッキ舗装、奥がアスファルト舗装になります。